建設業の社会保険未加入問題
——賃金だけでなく、社会保険の加入率も問題ですよね?
国交省 社会保険の未加入問題については、国土交通省で取り組みを開始してから約6年が経過し、成果が出ています。公共事業労務費調査によると、建設業の3保険(雇用保険・健康保険・厚生保険)への加入率は、2011年10月の段階で84%だったのが、2017年10月では97%まで増えました。しかし、その内訳を見ると、元請企業では98.2%の加入率であるのに対して、3次下請企業では90.5%と、下位の下請企業になるほど加入率が下がるので、まだ努力が必要です。
国土交通省の公共工事では2017年4月以降、2次下請け以降の企業にも3保険への加入を義務付けています。ただ、国や都道府県レベルでは、社会保険加入対策が進んでも、市町村レベルではまだまだ課題があると感じています。
――「建設キャリアアップシステム」でも、社会保険未加入への対策をしますか?
国交省 建設技能労働者の属性情報として「建設キャリアアップシステム」の中に、社会保険の加入状況も組み入れられる予定です。社会保険に加入することによって企業が競争上不利になり「正直者がバカを見る」というようなことはあってはならないことです。これまでの取組に加えて、建設業法の改正も視野に入れて、社会保険未加入の建設企業は許可・更新を認めない仕組みを検討しています。
――社会保険での法律上の適用除外、一人親方の扱いは?
国交省 一人親方で500万円未満の工事しか請け負っていない場合は、そもそも許可や更新の対象外です。法律上の加入義務がある場合、建設業の許可・更新を認めないということを検討しています。
民間工事でも徐々に「社会保険の未加入業者は、下請で使いません」という誓約書を、元請のゼネコンが発注者に提出する動きも始まっています。このような動きが拡充していけば、未加入業者は現場に入れなくなります。今後、官民を問わず工事現場から社会保険未加入業者は徹底して排除されていくでしょう。
ただ、地方の小さな地域建設企業レベルでは、もう少し時間がかかるかもしれません。しかし、全国建設業協会の近藤晴貞会長も「会員企業も下請企業もみな加入業者とする」と発言されているので、地方への浸透もあと一歩だと思います。
――建設業界の下請構造が社会保険未加入の原因では?
国交省 下請の下位にいくほど、法定福利費を受けられない実態もあります。「建設業働き方改革加速化プログラム」でも、重層下請構造の改善の検討が盛り込まれており、今後具体的な方策を検討していく方針です。
例えば、京都府や埼玉県が発注する土木工事では、下請けを2次や3次下請企業までに限定しており、その次数を超えた場合、合理性がなければペナルティーを課すという措置を実施しています。こうした事例も参考になると考えています。
また、建設業の働き方改革を進める中で、「建設業は重層下請構造で、ブラックボックス化している。間接経費など余計は費用がかかっているのではないか」という声もいただくようになっています。生産性向上の観点でも、下請の次数を減らす取組が求められています。