半世紀ぶりの足場イノベーション「次世代足場Iqシステム」
——「次世代足場Iqシステム」とは?
髙宮 「Iq(アイキュー)」というのは、知能指数の「IQ」ではなくて「1900」の「19」から生まれたもので、足場の階高1900mm(足場の床から天井までの高さ)を示しています。
われわれがこの「次世代足場Iqシステム」を開発するまで、約50年前から足場の階高は1700mmが基準でした。今でも、建設現場で稼働している足場の約8割は1700mmの足場ですが、この「次世代足場Iqシステム」によって、階高1900mmが足場の新基準になりかけている状況です。

従来の1700mmの高さから1900mmの高さに変更した「次世代足場Iqシステム」
——「次世代足場Iqシステム」が“次世代”たるゆえんは?
髙宮 そもそも、なぜ1700mmが足場のレギュレーションになったかというと、鉄製の足場が日本に導入された当時、日本人の平均身長が約160cmだったからでした。欧米から入ってきた足場は1900mmで、背の低い日本人は手を伸ばしても、上段の足場に床材を設置できない。頭にハチマキ、地下足袋の時代です。
しかし、今や日本人の平均身長は172cmになり、なおかつ現場では安全靴を履き、ヘルメットを被るようになると、現場での身長は180cmぐらいになるわけです。それで階高1700mmの足場に入って、作業や通行、運搬業務をするので、大半の方々が腰痛、頚椎損傷などに悩まされているのが現状です。
でも、それが当たり前になっていて、誰も不満を言わない。本当に足場は、半世紀遅れているんです。そこで階高を上げればいいじゃないかと、われわれが階高1900mmの「次世代足場Iqシステム」を開発したわけです。
——追随してくる同業他社は?
髙宮 「次世代足場Iqシステム」が人気になってくると、大半の同業者が類似品を作ってくるわけですが、1900mmは、そのうち1社だけです。他社製品はどこも階高は1800mm。一気に1900mmまで上げてしまうと、足場を組むときに頭の位置ぐらいまで、重たい床材を持ち上げないといけなくなるから、という理由です。それから既存メーカーにとって、急に1700mmから1900mmにすると「冒険」の域に入るので、中間の1800mmで無難に済ませたいという心理も働くのだと思います。どこまでも足場を組む側、メーカー側の理論です。
そこで私はいつも不思議に思うんです。何のための1800mmなのか?って。アメリカやヨーロッパは2000mmで、日本人も身長が伸びてきているのに、あえて、また1800mmにしようっていうのは、もう明らかに目先のことしか見ていないと。1800mmだと、足場の中に入って作業する方々にとっては、非常に窮屈なんです。やはり、足場を使って作業する人のことを最大限に考えれば、1900mmじゃないと彼らの抱えている悩みは解決できるわけがない。
施工員はどう思ってるんだろう?足場で仕事してる人は不思議に思わないのだろうか?というのが、私の考え方なんです。だから高くすればいいんじゃないか?って。だから、われわれとしては足場の階高を高くして、なおかつ、施工性の弱点も補うため、足場やその周辺部材の素材そのものを軽くしたわけです。今はさらに軽くして、女性でも組めるようにと改良を進めています。われわれのこだわりは、メーカー都合じゃなく、徹底的に使う側に立ってアイディアを出すところにあります。
この「次世代足場Iqシステム」に他にもネガティブなこと、不満があれば、ぜひ教えてほしいと思いながら、それらを改善するために製品の改良を重ねています。
足場レンタルの効率化
——他にも「次世代足場Iqシステム」が、旧タイプの足場と違う点はありますか?
髙宮 従来から標準となっている足場は、床材に隙間があります。その隙間から工事中に例えば、ボルトが落ちて、人に当たるという危険性があります。だから「次世代足場Iqシステム」では、床材の隙間を無くしました。

隙間、出っ張りがない次世代足場
それから、一般的な足場の内部には構造上、足元に段差、頭上に出っ張りなどがありますが、「次世代足場Iqシステム」の中は全てフラットで、引っ掛かったり、転倒したりする心配もなく、足場の上で手押し車も押せます。
こうした工夫は、エスアールジータカミヤが最初に取り組んで、今では、足場業界全体が次世代足場を採用せざるをえない環境になってきています。
——「次世代足場Iqシステム」を実際に現場で導入してもらう際、「抵抗」はなかったですか?
髙宮 新しいものを一番嫌がるのは、足場を組む施工者の方たちです。不便であっても、今まで慣れてきた方法が、やっぱり人間はラクで、それを変えられてしまうのは、凄く不安を感じるわけです。
しかし、エスアールジータカミヤには、協力会社の方々とともに足場を施工するチームが社内にあるので、まずはわれわれが足場を組んでみせて、お客様に使っていただく。ここで「使う」というのは、足場を組む方ではなくて、足場の中で作業をする左官屋さんとか、タイル屋さん。そういう方たちは「次世代足場Iqシステム」を一度体験すると、とても喜んでくれるんです。スペースが広い、高さがある、隙間がない、段差がないなど。役所の方からも点検時などに、足場の中を快適に歩きやすいというご意見もあります。
——現場監督の反応は?
髙宮 現場の責任者は、安全かつ計画どおりに工事を終えたいという気持ちが強いです。何か新しいことにチャレンジして事故につながったら、計画が遅れたらとの不安もあるでしょう。ですから、「次世代足場Iqシステム」を使ってみたくても、「もう少し様子を見よう」と思われる方が多く、説得をするには実績を積むしかありませんでした。その点は商品に自信があったので、地道に営業して現在の販売先は200社以上、導入現場は約5000現場と、知名度も上がり、今では安心して使っていただけるようになりました。
足場を組む人にも、足場に乗って作業する人にも、さらに足場を運搬する人にも「この足場良いな」って喜んでもらえる足場が「次世代足場Iqシステム」だと思います。
——運搬の効率も上がるんですか?
髙宮 はい、軽量化に加え、梱包時の容積もコンパクト化しています。突起もなく小さく畳めるので、当社での検証結果では、旧タイプの足場よりも容積は50%以下になります。われわれは全国に30ヶ所以上、合計で20万坪以上の置き場を持っていますが、置き場面積が半減するのは、レンタル事業を営む上で、非常に大きな意味を持ちます。
われわれは総額700億円ぐらいの足場を保有していて、その半分ぐらいが置き場に戻ってきて保管されている状況なのですが、この稼働率をさらに上げて、置き場を減らすことがレンタル事業的には望ましいわけです。それで、稼働率を上げるためには、どうすればいいかというと、足場の部材や種類を減らすことだと。
例えば、旧タイプの足場には、600mm幅、900mm幅、1200mm幅と、3種類のサイズがあって、なぜ3種類かというと、工事によってサイズを使い分けているのです。600mm幅は改修工事やメンテナンス工事をする際に、ビルとビルの間の狭い空間で使い、900mm幅は、スペースを確保しやすい新築工事で使います。1200mm幅は、土木工事でコンクリートを打つとか、足場というよりは支保工で使います。さらに、部材の点数が多いと、それだけ施工の作業が増えます。
そこで、足場のサイズも3種類もいらないだろうと、われわれは600mm幅と、1100mm幅の2種類だけに切り替えたんです。部材点数を減らすと現場作業も効率化し、置き場の面積も減らせるので、これもゆくゆく業界の新しい基準になるだろうと考えているところです。足場のイノベーションへの取り組みで、先陣を切っているのは当社であるとの自負があります。メーカーでありながらレンタル業者でもあり販売業者でもあるので、お客様に商品を使っていただいたご評価やご意見を、開発・製造にフィードバックし、再びレンタル・販売を通じて、改良された商品、新しい商品を使っていただけるという強みがあります。

900幅と1200幅のいいとこ取りをした1100幅の次世代足場