外部無足場工法「ノスキャップ工法」の開発背景
――外部無足場工法「ノスキャップ工法」の開発の経緯は?
大久保 大和ハウスグループは、技術者不足対策と建設現場の労働環境改善のため、現場の省力化や短工期化など生産性向上を図る新技術の開発に努めています。
その一環として外部無足場工法「ノスキャップ工法」の開発に着手しましたが、ちょうどこの時期に、フジタが大和ハウスグループに入ったことから、両社で開発を進めることになりました。
――「ノスキャップ」の意味は?
添田 「ノスキャップ工法」の名称は、ユニットパネルを用いた無足場工法の英訳Non-Scaffold Unit Panel(ノンスキャッフォールドユニットパネル)を略したものです。
――無足場工法を初めて実用化したのは、どんな現場でしたか?
添田 物流施設です。物流施設や工場などの外壁を施工するには、外部足場を組み、下地材にパネルを1枚ずつ取り付けなければなりません。その際、外部足場の設置・撤去作業には多くの作業人員や作業日数を必要とします。
また、場内でのパネル搬送も、手間がかかります。そこで、「カーテンウォール」の要領で外壁を取り付けられないか、しかも、それをユニット化できないかと検討し、外部無足場工法「ノスキャップ工法」の実用化にいたりました。
――「ノスキャップ工法」ではどうやって外壁を取り付けるのでしょう?
添田 複数枚の外壁パネルを接合したユニットパネルを組み立て、クレーンで吊り上げて、建物の躯体に取り付けます。初めて実用化したこの物流施設では、2017年秋頃から外壁工事に入り、2018年2月に竣工しました。
――ユニットパネルは工場で組み立てるのでしょうか?工場でのユニット化は大和ハウス工業が得意とするところですが。
大久保 いいえ、現場で組み立てます。外壁パネルは、ロックウールを拘束材(鋼板)でサンドイッチ状に挟み込んだ建材です。重量約20㎏/㎡、働き幅600~1000mm、厚さ50mmで、長さは最大10mまで製作でき、これを組み立てたユニットパネルは幅6m程度、高さ7m程度になります。
大和ハウス工業の一般的な住宅の外壁パネルは幅2m、高さ3m程度なのでトラック運搬が可能ですが、これだけ大きなパネルを、ユニット化した状態で運搬することはできません。そこで現場に搬入してから地上で組み立てる「サイトPCa」の考えを導入しました。
外壁施工に必要な作業員数を3割削減
――開発で工夫した点は?
添田 現場の組み立てでも工場と同等の品質を確保するため、随所に工夫を施しています。特に配慮したのは、ユニットパネルを簡単にスピーディーに精度良く組み立てられる仕組みを、組み立て用架台に施した点です。
――実用化する際、社内でどんな意見がありましたか?
添田 現場・設計・営業・積算・調達・技術など、関係者で協力し合おうという声が多かったです。スムーズに実用化させ、竣工後は次に活かそうという声がありました。私は開発側として現場を見ましたが、外部足場の組みばらしがほとんどないので、躯体工事に専念できたという印象を受けました。これにより、鳶職人の人件費削減のメリットが生まれました。
――鳶職人は実際に不要だったのでしょうか?
添田 手摺やネットなどの安全対策やユニットパネルを組み立てる架台の設置をする鳶職人もいるので、外壁パネル工事にかかわる鳶職人が完全に不要になったわけではないですが、結果的に外壁施工に関わる作業員を3割削減できました。
大久保 足場が不要になるメリットは多いです。足場の組みばらしや、足場の位置、足場の棚板を移し替える盛替えにも、それなりの手間がかかります。足場を使っていろいろな職種工事担当者が工事をしていると、工具や材料を外壁仕上げにぶつかるリスクもあります。工具等の落下による事故の危険性もあります。
そのため、今後も「ノスキャップ工法」に限らず、無足場工法の開発に力を入れたいです。ただ、標準化の視点では、まだ完成度を高める必要があります。工期短縮などのメリットも含め、もっと改良していくつもりです。
――この無足場工法は、物流倉庫以外でも適用可能なのでしょうか?
添田 たとえば、研究施設や工場などが考えられます。
大久保 住宅に関しては、使っている建材がサイディングなので、まったく違う外壁材です。よって本工法をそのまま導入することは難しいです。敷地条件によっては、採用が困難な場合もあります。たとえば、あまりにも狭い敷地条件であれば、クレーンで吊れないことに加え、架台も設置ができないなど難しい点が多いです。
また、外壁面積が小さければ、この無足場工法を採用する効果も薄くなりますので、スケールメリットのある敷地や建物サイズでの採用が前提になります。物流倉庫では「ノスキャップ工法」を標準化工法として採用されるようにしたいと考えています。工場や事務所などは意匠的に合うと思います。