土木業界のマーケットは確実に拡大する
――証券会社の働き方は、土木業界と比べていかがですか。
八木 一般的に証券業界は、土木業界と同じくモーレツ文化が根強いのですが、大和証券グループは異なります。社会全体が長時間労働問題にまだ無関心だった2007年に、残業が常態化する証券業界で果敢にも「19時前退社」に挑戦した企業が大和証券です。
長期的視点で業界一位になるためには優秀な人材が必要だ、特に優秀な女性が働き続けられる職場にしようとモーレツ文化から舵を切りました。保育園にお迎えに行ける時間内で、最大の成果を上げてもらおうと。その魅力的な勤務体系をもって、日本の優秀な女性に選ばれる証券会社になろうと。
その甲斐もあって、現在では、大和証券グループは学生の就職人気ランキングで常に上位を占めており、特に女子学生から人気があります。時代に10年以上も先駆けてダイバーシティやインクルージョン、働き方改革のエッセンスを経営戦略として採用し、優秀な人材の安定的な確保に成功した大和証券グループは素晴らしいと思っています。
――そうなのですね。証券業界は土木業界よりも厳しいのかと。
八木 勿論、証券業界は成果主義の非常に厳しい世界ですが、その過程で年齢や性別が妨げになるということはありません。この世界は自分の能力を最大限発揮できる場ですし、成果に応じて報酬や役職も確保されます。
特に、大和証券グループではパイオニア精神とかプラス思考のベースが存在し、前のめりの失敗が歓迎されるため、従業員のモチベーションの向上につながっています。これはこの会社の大きな魅力だと思っています。
――素晴らしいですね。大和証券さんのような仕事の仕方は土木業界ではまだ難しいですか。
八木 私も東北地方整備局職員だった頃にそのことを疑問に思い、自分が担当する工事現場の全ての現場代理人の方に土木の働き方への所感について訊いてみたことがあります。皆さん、土木の仕事は面白いし、やりがいはある。ものをつくるということに、これ以上ない喜びがあると口を揃えて仰います。ただ、その偉大な仕事の対価としては、あまりにも安い給与、あまりにも少ない休暇時間、そして、あまりにも不規則な生活であると。
――確かにその乖離は大きいですね。
八木 土木は非常にやりがいのある仕事です。あれだけの人数の利害を調整する、とても困難な仕事ですから。現場代理人って20代からいますからね。その年齢で国の仕事、何億円という工事をマネジメントしなければならない。総合建設業だったらそういう現場を2~3人で回すわけで、非常に高度な能力が必要ですし、社会的な意義ややりがいもあるし、急成長もできる。
ただ、圧倒的に労働環境に関すること、つまり仕事を支える衛生要因が不足していますよね。自分の体調や貯蓄に対する将来の不安が原因となって土木業界から転職される方が多い一方、やりがいがないから辞める人は相対的に少ないはずです。
――確かに土木学会で実施したアンケートでも、やりがいはあるけど長時間勤務が辛い、という意見が多く出ました。
八木 土木業界は衛生環境さえ改善されれば、人が戻ってくると思います。土木の仕事が社会から評価されない、という話が出たりしますが、それは様々な要因のうちのごく一部ではないかと思います。
――土木業界全体で、直ちに衛生環境の改善を行うことは難しそうですが。
八木 土木業界が衛生環境を改善できない主な原因は、景気に左右されやすい変動収入が大半を占める、不安定な土木業界の経営環境です。
幸いにして、今の土木業界は大変な好況です。ゼネコン各社の2017年4~9月期連結決算では、純利益は大手4社すべてと、準大手10社中6社が過去最高を更新しました。つまり、現在は余剰能力を用いて将来の固定収入源への投資を行うことのできる好機です。
――土木業界の企業における固定収入とは何でしょうか。
八木 例えば、今後、人口減に伴ってPPP/PFIの導入が否応なしに進むと考えられます。空港経営のような、今まで公共が担ってきた分野に土木業界が参入するマーケットは確実に拡大していきますので、そこでいかに景気に左右されにくい固定収入を確保できるかがカギになってきますね。
また、土木業界との親和性が高い国内洋上風力発電や都心の不動産への投資も、土木業界の企業にとっての将来の固定収入源になると思われます。
課題は山積みだけど、それを改めて確認出来た当連載は良かったと思います。
土木学会も変わるべき。
いかにも頭良さそう