建設業のM&Aは、技術者獲得のため
「技術者にはヘッドハンティングの話が相当あります。技術者〇〇さんの携帯電話教えてくれと直接言われることもある。」
こう語ったのは、ある中小建設会社のトップだ。ヘッドハンティングは年々大胆になっているという。いち早く技術者に接触する一番手っ取り早い方法は、携帯電話番号の入手だ。携帯番号を入手した後は、直接ヘッドハンティングし、金額を提示する。給料が上がれば心を動かすことも少なくない。
しかし、最近では、個別にヘッドハンティングするよりも、会社ごと買収した方が早いと考える企業も登場した。しかもその数は少なくないという。M&Aを手がけるコンサルタントは建設業のM&Aの傾向についてこのように分析する。
「建設業がM&Aを行う理由は2つあり、1つはその商圏を入手したいこと、もう1つは技術者や技能者を丸ごと手に入れること。最近の傾向としては、後者を目的にしたM&Aが増えて、当社では今90%がそれです。」
そして前出の中小建設会社トップはさらに続ける。
「弊社にもM&A専門会社から、会社を売りませんか、という誘いが来ています。私は社員に対して、そのことを隠していません。ただ、建設業で生きていくのに必要なことは、技術力と人間性を向上していくことに尽きる。社員たちにはどこの会社でも食べていけるように、日々研鑽を積んでほしい。」
建設業は今、首都圏を中心に好景気に沸いているが、建設氷河期時代に技術者と技能者の採用を打ち切ったことで、人材不足が続いている。そこでM&Aをして人材ごと会社を買収する動きが出てきているわけだが、しかし、お金を積めば、人材獲得を進めるためのM&Aが実現するかと言えば、そんなに簡単な話ではないようだ。
建設技術者を大量採用するためのM&A
建設不況の時に運転資金を借り入れた企業は、金融円滑化法に基づいて、その借金の返済を先延ばしにしており、現在もその借金を返済していない企業もある。買収すればその借金も返済する義務が生じる。
次に建設業界独特の高齢化問題もある。代表が高齢化しているだけでなく、従業員も高齢化しているため、譲受会社からすれば、「仮に買収しても数年経てば、この技術者や技能者が居なくなるのでは」という懸念から、M&Aがすんなり進まない理由になる。買収する旨味がない。
しかし、前出の中小建設企業のように若い技術者を抱えていれば、格好のM&Aのターゲットになる。コンサルタントは虎視眈々とM&Aを狙うという構図だ。