子供ができた後、国連を辞めて専業主夫になった夫
――ご結婚はいつ?
ドイル恵美さん 主人とは、ラオスで出会いました。彼はアメリカ人で、当時国連職員でした。知り合ってからしばらくして、彼が、アメリカ政府の要員として、東ティモールで働くことになり、彼に付いていきました(笑)。東ティモールではずっとテント生活でツラくって、「責任取って」と迫り、その後、結婚しました(笑)。
子どもができる前は、タイとブータンの遠距離結婚をしていましたが、子どもができた後、夫婦で協議し、主人は国連を辞め、ブータン赴任に同行してくれました。そのとき、主人は「僕にはキャリアがあるけど、君にはキャリアがないから、今は自分のキャリアを大事にしなさい」と言われて、「素晴らしい人と結婚した」と思ったのですが、それから12年間ずっと専業主夫で、私の赴任先に付いてきています。あれは、彼の作戦だったのかもしれません(笑)。
――お子さんは?
ドイル恵美さん 今年13歳になる娘がいます。物心ついた時から、「母が外で働き、父が家で」という環境だったこと、また、途上国育ちなので「女は外で働くもの」というのが、自然に身についてますね。
インド駐在だったとき、休暇でプロジェクト近くの都市に行くことがあり、宿泊先のそばにサイト(浄水施設)があったので、娘を連れて視察した思い出があります。娘は「JICAで働くママは、カッコ良かった」と今でも言っています(笑)。

インドの浄水施設を視察する娘さん(中央下)
「海外、特に途上国の子育ては大変では?」とよく言われましたが、健康・安全さえ気をつけていれば、とても楽です。日本に帰国して6年ほど経ちますが、娘はすでに強靭な体力と精神力を身につけており、インフルや風邪で学校を休んだことは一度もありません。どこでも友達をすぐに作り、楽しく生きていける強い子に成長しています。
海外赴任は、女性技術者にもオススメ
――また海外に行きたいとは思いませんか?
ドイル恵美さん 最近は、あまり思わないですね。以前は「昔のようにプロジェクトを立ち上げたい。日本では、やりたいことができない」と考えていましたが、今は「日本にいても、やりたいことができるんじゃないか」と考えるようになっています。これから海外に行こうとしている会社をサポートするとか。これからの若い人材を育てるとか。
最近は中国のインフラ輸出の勢いが強く、日本企業はなかなか海外で仕事を取れない状況にあります。そこをどう支援するかに興味があります。JICAという立場ではなく、同じ技術者仲間としてサポートしたいと考えているところです。
日本企業は、いろいろなリスクがあるので、海外に出たがらないところがあります。インフラ輸出を提唱している日本政府と足並みが揃わないこともあります。一方で、実際にインフラをつくったことがない技術者は年々増えています。
私としては、若い技術者がどんどん海外に出て行って、モノをつくる経験を積んでもらうと良いと考えています。メンテナンスの仕事だけだと、やはり、技術者はワクワクしませんよね。モノづくりの経験は、必ずメンテナンスにも必要だと思います。
海外赴任は、女性技術者にもオススメです。発展途上国の場合、お手伝いさんや、調理師さん、ベビーシッターさんを安価で雇えるからです。家事・子育てはすべて任せられるので、日本のお母さんに比べて余暇は意外とあるんですよ(笑)。運転手さんも付くので、渋滞中でも、車の中で仕事をしたりできますし、平日は、仕事と家族と過ごす時間以外は何もしなくて良いのです。
週末も、洗濯・掃除なしで、子供と遊びに行ったり、一人でマッサージに行ったり、お買い物に行ったりできました。子供預けて、夫婦で旅行とかもよく行きましたね。日本では、金銭的にも難しいので、女性の技術者の方には一度経験して欲しいですね(笑)。
今、私は通勤時間に、「今日の晩御飯どうしよう」と考えるのがつらいんです。家に帰っても、洗濯や掃除が待っている。週末も、マッサージに行く自分の時間なんてないので、そんな時は「また海外赴任したいなぁ」と思うときはあります(笑)。
すごい方がいらっしゃるんですね。同じ女性として感動しました!