日本の土木は、中国に太刀打ちできなくなっている
――入社後の教育、育成も大変でしょう?
岡村正典 奥村組では人に対する投資は惜しみません。入社した社員は現場配属になりますが、入社後の研修にもかなりの時間をかけています。
藤井聡 現場が「金太郎飴化」しているらしいという話を聞きます。橋で言えば、最近は新しい橋梁技術が入らないので、通り一遍の現場ばかりになってしまうと。
昔は、長大橋の世界トップ10は日本の橋が並んでいたけど、今は日本の橋がほとんどなくなってしまったらしい。日本の土木の技術力は「もはや中国などに太刀打ちできなくなっているんじゃないか」と危惧しています。
岡村正典 一般論として、新しくて巨大なプロジェクトをやると、最先端の技術が発展します。一方、効率的に仕事をしようとすると、標準的な仕様や設計が多くなり、輪切りになるわけです。そのほうが短期間に設計できて、たくさん発注できるからです。われわれも設計通りにつくれば文句を言われない。
ただ、土木の現場は同じ条件ばかりではないため、標準の設計だけでは構造物をつくれないこともありますし、現地に合ったもっと効率的で経済的な方法があるかもしれない。しかし、同じやり方ばかりでやっていると、技術力アップにはあまりつながらない。技術力アップのためには、例えば「こんなところにトンネル掘れるのか」という施工条件のもとで仕事をすることも必要になります。
藤井聡 通り一遍のやり方だと、やる気もなくなるだろうし。
岡村正典 極端な事例ですが、小規模な自治体で「設計に書いてある通りにやってください。なるべく変更しないでください」と言われることがあります。技術者が不足したり、技術力が低下したりしていて対応できないから、発注者も変更をなるべくしたくないんでしょうね。
「書いてあること以外はやらないで」と言われて、われわれも工程や金額で不利になる場合は食い下がりますが、そうでない場合は、楽だから余計なことはしないこともあります。ただ、それだと技術力は向上しないし、面白くないですよね(笑)。
藤井聡 うん、技術力落ちるよね。
見坂茂範 日本の土木技術はここ数十年、進歩が止まっちゃっていますよ。長い橋を架けなくなったし、長いトンネルも掘らなくなったし。チャレンジングな新しいプロジェクトがなくなってしまいました。
もちろん全部が全部チャレンジングなプロジェクトである必要はありませんが、少なくとも全国で一箇所ぐらいは新しいプロジェクトをやっているという状況をつくらないと、技術力は進化しないと思います。
藤井聡 お隣の中国がガンガンすごい構造物をつくっていることを考えると、日本の土木技術が止まっていることは、相対的に日本の技術が衰退していることを意味しますよね。
見坂茂範 そうです。一昔前は日本の土木技術は世界最先端だったのに。
岡村正典 世界的にも最先端な技術を使って、巨大プロジェクトに携わったということになれば、生きがいとかやりがいにもつながると思います。そういう分かりやすい、目立つやりがいを感じてもらうことも重要ですね。
藤井聡 やっぱり仕事に対する夢と誇りがないと。
岡村正典 われわれは、ものができることに喜びを感じるのはもちろんなんだけど、それを使った人から「便利になったよ」と言われると、もっと嬉しいんだよね。
コンプラの影響で、技術力が置き去りに
――「民間も行政も技術力が落ちている」という話は聞きます。
見坂茂範 土木全体の工事量、人数が落ちているので、発注者、施工業者ともに現場に接する機会が減っています。経験する機会が減れば、当然技術力も落ちますよね。
藤井聡 それも緊縮財政が問題だよね。
岡村正典 われわれは「現場力」が落ちていると認識しています。現場力とは、技術的なものだけじゃなくて、「施工をうまくやる力」ということです。
例えば、発注者や協力会社の方々とうまくやっていく力もそうだし、危険を感覚的に瞬時に察知する能力のようなものなどもそうです。図面に書いてあるけど、「このままだと斜面が滑るんじゃないか」と感覚的に予想して、大丈夫かどうか再検討するようなことが重要であって、「図面に書いてある通りに施工したら滑った」というのでは施工業者としては落第です。
これらの力は経験で蓄積される部分も多いので、工事量が減って経験の機会が少なくなった今、現場で埋まらないところを、研修で埋めようとしています。
藤井聡 研修では埋まらんもんなあ。
見坂茂範 発注者も悪いところがあると思います。最近の役所は、技術的な部分ではなくて、書類のチェックとか審査みたいなところばかり厳しくやるようになっています。発注者が厳しいので、業者さんも書類をつくることばかり一生懸命になっているところがあります。それにスゴく時間をとられるようになっています。
なぜ発注者が厳しくなったかと言うと、コンプライアンスを厳しく言われるようになったからです。なにかあるたびにチェックを厳しくしていく一方です。緩めることはありません。本質的な部分、技術的な部分が置き去りにされているようなところがあります。
藤井聡 もう一度言いますが、今のお話はすべて「緊縮財政が導いた必然的帰結」なわけです。緊縮だから現場量が少ないので、現場経験が積めない。エネルギーを費やす新しいものがないので、縮こまってコンプライアンスばかりに着目して、現場が疲弊する。
僕は、経済学や社会科学の知見を応用して、アンティオーステリティ、つまり「反緊縮」を進めようとしています。ただし、建設業界の活性化のためだけに「緊縮財政をやめよ」と言っているわけではありません。防衛省や医師会、消費者グループなどいろいろな方から意見をお伺いしてきた結果、緊縮財政があらゆる問題の根幹に位置する最も深刻な問題だと考えているわけです。
誰もコメントしていないのであえて言う。公共事業は財政が健全な時は肯定されますが、財政が厳しくなると否定されます。東日本大震災で私の設備会社は倒産しました。人は災害リスク音痴になっています。私がそうです。そこから、施工管理技士になり思うことは、日本はトラック物流システムの国であることと大量消費大量生産で国力を維持してきました。しかしながら維持・メンテナンスは世界的見てもダメな国です。これから、世界で様々な災害が起こります。日本は対応遅れると思います。
社会インフラを整備しない国は亡びる。
当たり前のことですよね。
自分で自分の首を絞める事をやりながら、社会が成熟する筈がない。
そのうち思い知りますよ。
身動きとれなくなって、狭い地域でしか動けない何百年か前の頃に戻った時にね
安かろうよかろうなんて近代化した昨今ありえない。
公共工事で利益を出してはいけない意味もわからない。
予定価格があり入札する以上は市場単価を超えていないのに高落札率=談合、だからすべて悪だの考えもよくわからない。
そもそもありえない程安い(市場単価)で請けている。
いいかげん国民はマスコミに騙されていることに気づくべき。
僕自身は土木に関して全く素人な理工系学生ですが、読んでいて心当たりのある話が多いと思いました。
緊縮財政は本当に酷いようですね。
そもそもインフラに金かけ過ぎ。
地震国なので高い技術力を持って整備は良いが仕様が厳しいし高品質を求める割には耐用年数が短い、メンテナンス方法や費用を全く考慮してない計画ばかり。
諸外国の様にもっと簡易にしてコスト下げてメンテした方が効率的ではないですか?
1国民として傍から見ていると作る事で満足してしまって次世代への引継ぎは考えて無いとしか思えないです。